イーストについて(その2)

(その1はこちらから

イーストは菌類に分類される単細胞生物です。この微生物の生命活動がビールという飲み物を生み出します。この生命活動をよく理解し、イーストが活動しやすい環境や状態を作り出すことで、おいしい手作りビールが出来上がります。

ビアイーストの活動環境

イーストの生態は複雑で現代でも完全には解明されていません。ただ、どういう形でどういう行動をとるかといった大まかなことはわかっています。「イーストの特徴」とそれが「どうやって手作りビール作りに生かされているか」について説明していきます。

ビールの発酵に関わる数日間に、イーストはその数を3〜5倍に増やしながら一通りのライフサイクルを完了します。そのサイクルは次の3段階から成り立っています。

  1. 呼吸:活動し増殖するためのエネルギーを蓄積する
  2. 発酵:蓄積したエネルギーを使いながら糖をアルコールと二酸化炭素に変化させ、ビールの風味を醸しだしていく。この期間中イーストはウォートの中を浮遊し拡散して、さかんにビールとの接触を続けている
  3. 沈殿:凝集しながら発酵容器の底に沈殿する。エネルギー源となる食物がなくなると、イーストはその活動を停止する。その後は休眠状態に備えながら生命維持の段階に入っていく

手作りビールでは、イーストがこれらの段階を速やかにかつ健やかに行えることが大事です。なぜならウォートの中には他の微生物もいて、それらが増殖する機械を伺っているからです。ビアイーストがすみやかにその活動を開始すれば、これらの「雑菌」が繁殖するチャンスを潰すことができます。したがってビアイーストが好む環境をつくってやり、すみやかに発酵活動を開始させることがビール作りの重要課題になってくるのです。

環境の要素としては

  • 温度
  • pH
  • 栄養素/食物
  • 酸素
  • 健康状態

があります。これらの要素はビアイーストに限らず全ての生物にとって重要な要素です。もちろん人間にとっても大事なことになります。だから基本的なことさえ抑えておけば簡単に理解できるはずです。

温度

ビアイーストは1℃〜32℃の範囲で発酵活動をします。上面発酵のエールイーストなら16〜24℃、下面発酵のラガーイーストなら2℃〜10℃のときに活動が最も盛んになり、ビールの風味もうまくつきます。この温度より低いと活動が鈍くなるか停止します。反対にこの温度より高いとイーストは死んでしまうかむしろ活動が活発になります。たいていは49℃を超える温度でイーストは死にます。また、ウォートの温度が高くなるとバクテリアの繁殖によってビール汚染が始まります。これと同時にビールにとって好ましくない風味(オフフレーバー)がイーストによって生み出されるようになります。オフフレーバーとは

  • フルーツ臭
  • ソルベント臭
  • サイダー臭
  • バタースコッチの臭い
  • アセトアルデヒドによる草のような臭い

などがあります。イーストも人間と同じように急激な温度変化を好まないので、イーストを培養したり膨潤化(水を含ませる)させたりするときには、イーストを培養した液体の温度をゆっくりとウォートの温度に近づけてから、ウォートに投入するようにします。

pH

蒸留水は中性です。pHの値は7.0です。これより低いと酸性、高いとアルカリ性になります。たいていのビアイーストはph5.0〜5.5くらいの酸性を好みます。ウォートの酸性度はもともとこれくらいなので、pHを調整するためのものを何も添加する必要はありません。イーストによる発酵が進むとウォートのpHは4.5くらいまで下がります。イーストは非常に繊細で、特に「浸透圧」に敏感です。浸透圧とはイースト細胞の内と外の圧力の差によって生まれる力のことで、この圧力が高いとイースト細胞の壁には大きな力がかかります。つまりイーストはストレスを感じるのです。さらの大きな圧力差があるとイーストの細胞は破裂してしまいます。破裂を免れたとしても、その環境になれるまでの間イーストは本来の発酵活動を開始できないことになります。できるだけこのショックを和らげて発酵活動をうまく行えるようにすることが大切になります。

栄養素

あらゆる生物にとって生命活動を維持するために大切なことは、新陳代謝と健康な細胞壁を保つことになります。そのためには栄養源となる食物が必要となります。イーストの食物は糖分、タンパク質、脂肪、微量のミネラルです。糖分はエネルギー源として、タンパク質はイーストの細胞壁を構築する物質として利用されます。蛋白質はモルティングやマッシングの時にアミノ酸として形成され、それがイーストの栄養源となります。一方、ホップやモルトに含まれる脂肪もイーストの細胞壁を作るのに役立っています。これは少量あれば足ります。またミネラルとしては亜鉛とカルシウムがイーストの活動に欠かせません。亜鉛はモルトから、カルシウムはモルトや水から補給され、どちらも多すぎるとイーストにとっては有害となります。これらの栄養素が正しく補給されないと、イーストの不活性や変形、不十分な沈殿、オフフレーバー、ビールの安定性が落ちるなど、さまざまな問題が起こります。イーストの種類によって必要とされる栄養素は異なりますが、これらの栄養素はどのモルトエキスにもだいたい十分に含まれているので、あまり心配する必要はありません。

酸素

イーストが増殖を始める初期の段階で、酸素は欠かすことのできない要素です。イーストはまず呼吸活動をすることによって、その後に続く活動に必要なエネルギーを蓄積していきます。これには糖分と酸素が必要となりますので、この過程をエアロビックな段階と表現したりします。イーストはウォートに溶け込んでいる酸素を取り込んで呼吸をするので、ウォートにはできるだけたくさんの酸素が溶け込んでいることが望ましいです。煮沸したウォートには酸素が欠乏しているので、ウォートを撹拌して酸素を取り込む必要があります。酸素の足りないウォートでは発酵が非常に緩慢に進むか、あるいは完全な発酵が得られないといった状況が起こります。酸素をウォートに溶けこませるためには、ウォートを発酵容器に移すときにできるだけ勢い良く酸素を巻き込むようにして流しこむと良いでしょう。ただし煮込んだウォートに後から水道水を加える場合には、酸素の欠乏を心配する必要はありません。水道水には酸素が十分に含まれているためです。ところが反対に、発酵が始まった後のウォートには決して酸素を近づけてはなりません。

健康状態

イーストの健康状態に対する配慮は前述したとおりですが、付け加えるならばイーストのパッケージングや保管があります。液体イーストは冷蔵庫で保管するか、あるいは特別処理をして冷凍庫に保管します。パッケージの説明書きに従ってください。温風で乾燥されるドライイーストは、室温でそのまま保存することもできますが、冷蔵庫で保管すればもっと長持ちします。

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