イーストについて(その3)

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ビアイーストのライフサイクル

手作りビールを作る最中に、イーストが発酵する様子を確認することができます。イーストの種類や状態、準備の仕方によって、発酵にもいろいろなパターンがあります。

ーストは初め休眠状態にあります。ウォートに投入されたときからライフサイクルが始まります。イーストは呼吸期と発酵期にその数を3〜4倍に増やします。イースト細胞は出芽気と呼ばれる過程で、だいたい24時間ごとに分裂を繰り返しその密度が最適状態(1mlあたりに5千万個)に達するまで増殖します。その増殖過程でイーストは栄養素を取り込みながら新陳代謝を繰り返します。ライフサイクルは

  1. 呼吸期
  2. 発酵期
  3. 沈殿期

の3段階に分けられます。

呼吸

イーストの呼吸活動はウォートに投入されたときから始まります。これは酸素がイーストの細胞内に取り込まれる「好気性の過程」です。イーストは取り込んだ酸素から増殖や細胞構造の形成、発酵に必要なエネルギーを得ることになります。そしてこのエネルギーは発酵過程でほとんど使い切られてしまいます。呼吸期の時間はその状況によって違いますが、たいていは4〜8時間になります。この期間中にイーストは増殖し、二酸化炭素と水、またビールの風味を生み出します。

風味はイーストの新陳代謝による副産物で、中でもエステルとダイアセチルの匂いが際立ちます。エステルのタイプはイーストの種類や温度、その他の条件によって異なり、その匂いにはストロベリー、りんご、バナナ、グレープフルーツ、ナシ、ラズベリーなどがあります。このエステル臭はビール好きにとっては好ましいものだといえます。

ダイアセチルはバターあるいはバタースコッチのような匂いを生み出します。これはバクテリアによって生み出される場合もありますが、たいていはイーストの新陳代謝によるものです。この風味はイーストが浮遊する発酵段階に減少されます。イーストが十分な期間浮遊していないとダイアセチルの生み出す風味を消し去ることができなくなり、結果としてバター臭がビールについてしまいます。これは一般的にはオフフレーバーとして敬遠されますが、むしろこの風味を個性としているビールもあります。

英国のヨーク州にあるサミュエル・スミスという醸造所では、サミュエル・スミス・ペールエールとビターを醸造しています。これらのビールにはわずかながらもバタースコッチの風味がついています。発酵は特別なエールイーストをスレート(粘板岩)で囲まれたヨークシャーストーンと呼ばれる特殊な四角い容器で行われますが、発酵期にイーストが浮遊する状態が十分に得られないので、時々ビールを撹拌してイーストを浮遊させます。それでもダイアセチルの動きを十分に和らげることができないので、結果としてバタースコッチの風味がビールに残ることになります。そしてこの風味こそがサミュエル・スミスの個性となっています。

発酵

呼吸期につづいてすぐに発酵期が始まります。発酵は呼吸と反対に「嫌気性の過程」なので、酸素は全く必要とされません。実際にはウォート中の酸素はそれ以前にイーストが作り出した二酸化炭素によってかき出されてしまい、液中にはほとんど残っていない状態です。ただしこの発酵段階でもイーストは増殖を続け、それが人口密度の最適値に達するまで続きます。そしてウォートの中を徘徊し、糖をアルコールと炭酸ガスに変化させながらビールの風味を作り出していきます。

ビアイーストの特質は発酵を終えるまでしっかり浮遊している点にあります。イーストのほとんどは3〜7日の間液中に浮遊して、そのあと凝集し容器の底に沈んでいきます。発酵の最盛期にイーストはエネルギーの枯渇を感じ始めます。そして発酵が終了に近づくとイーストの食料はほとんどなくなり、イーストは休眠準備を始めながら容器の底に沈殿していきます。

たまに卵の腐った臭いを感じることがありますが、これは珍しいことではありません。ある種のイーストは硫化水素を作り出すため、それが炭酸ガスによって表面に運ばれて卵のような臭いを発します。この場合はイーストを変えるか、発酵の温度を変えてみると良いです。

沈殿

沈殿の過程でイーストはグリコーゲンという物質を作り出します。グリコーゲンはイーストが休眠する際の細胞壁を保持するために必要な物質で、イーストが休眠から覚めて再び活動を始めるときの栄養源となります。沈殿を始めたころのイーストは最も活力を内蔵しているので、イーストを再利用する場合はこの時期の沈殿物が一番良いということになります。イーストが沈殿してしまった後の発酵はほとんどなく、あったとしてもかなりゆっくりになります。沈殿が早過ぎると、発酵が完了するまでの期間が長くなります。その場合には沈んでしまったイーストを撹拌して浮遊させる必要があるかもしれません。ただし酸素やバクテリアを混入しないように、最新の注意を払ってください。でも手作りビールを作る場合にはあまり気にをせず、沈殿が早すぎたと思ったらじっくりと発酵が終了するのを待てば良いのです。大抵の場合は3日もあれば発酵は終わります。

もし何週間にも及ぶ長期間の熟成を行いたいのであれば、沈殿したイーストとビールを分離させたほうが良いです。ある期間を過ぎると、イーストが自己分解という劣化を始め、これがイースト臭の原因となる場合があるためです。発酵を終え、沈殿したイーストはビールには必要がありません。これを取り除いても、中にはまだ何百万ものイーストが浮遊しています。このイーストだけで熟成や瓶内発酵には十分だからです。ただし、底に溜まったイーストがない場合は、オフフレーバーは必ずしもイーストのせいとは言えません。また、瓶詰めしたあとのビールには少量のイーストがあったほうがビールの風味が安定します。

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